近年では、M&Aを「高く売れるなら売りたい」「早く終わらせたい」という理由で決断する例も少なくありません。仲介業者が「いまが売り時」と勧め、経営者も「手間をかけずに譲りたい」と考えてしまうのです。
しかしこれは、たとえば新築の家を購入する際に「安くて早く建つから」という理由だけで業者を選ぶようなもの。後になって欠陥や不満が出ても取り返しがつかないのは、どちらも同じです。
事業承継は、「早ければ早いほど良い」「高く売れれば成功」というものではありません。そこにあるのは、理念や人材、文化、関係性といった"目に見えない価値"であり、それを引き継いでくれる相手こそが真の後継者です。
3. 詐欺やトラブルの温床になる「焦りのM&A」
焦りから進めたM&Aが、詐欺まがいのトラブルを引き寄せてしまうケースもあります。
たとえば、表面上は魅力的な条件を提示して買収を申し出てくる業者でも、実態は資産の切り売りが目的だったり、従業員を一掃する意図があったりする場合があります。
買収後に経営体制が一変し、従業員が離職し、事業価値が毀損される……。このような悲劇を避けるためには、「すぐ決めたい」「面倒を避けたい」という心理に流されず、慎重に相手の真意を見極める必要があります。
4. 事業の本質を引き継ぐという視点
M&Aで本当に大切なのは、「いくらで売れるか」や「何日で決まるか」ではなく、「誰に引き継ぐか」という一点です。
経営理念に共感し、従業員を尊重し、事業の未来に責任を持てる人に託す。それこそが、経営者として最後に果たすべき責任です。
表面的な数値だけで判断するのではなく、相手が自社の文化や価値を理解し、共感してくれるかを見極めましょう。それには当然、ある程度の時間が必要です。手間を惜しんで、後で後悔するより、納得できる形で承継を進めることが肝要です。
5. 信頼できる相手の探し方と公的支援の活用