【令和7年法改正対応】本店移転で管轄法務局をまたぐ場合の登記手続きと印鑑届出の注意点

2025年07月17日

会社の本店を移転する際、移転先が現在の法務局の管轄外となる場合には、登記手続きが大きく変わります。これを**「管轄外移転」といい、定款変更や株主総会の特別決議に加え、登記申請も旧・新両方の法務局への「経由同時申請」**が必要になります。

さらに、令和7年(2025年)4月21日からは、新本店所在地における印鑑届出が不要となる法改正も施行され、手続きの一部が簡素化される一方で、印鑑カードの再発行など新たな注意点も出てきます。

本記事では、法務局の管轄をまたぐ本店移転の登記手続きの流れ、必要書類、そして印鑑届出制度の最新動向までを司法書士の視点からわかりやすく解説します。

目次

  1. 管轄外移転とは何か?
  2. 株主総会と定款変更の要否
  3. 経由同時申請とは?
  4. 令和7年4月施行:印鑑届出制度の改正内容
  5. 印鑑カード再発行の注意点
  6. 実務でのよくあるミスと対策
  7. まとめ

1. 管轄外移転とは何か?

 「管轄外移転」とは、会社の本店を別の法務局の管轄エリアに移すことを意味します。

 たとえば、「高松市」から「徳島市」へ移転する場合、それぞれ別の法務局が管轄しているため、単なる本店移転とは扱いが異なります
 このようなケースでは、移転元の法務局と移転先の法務局の両方に関わる登記申請が必要となるのです。

2. 株主総会と定款変更の要否

 管轄外への移転は、通常、市区町村も変わるため、定款に記載された本店所在地を変更する必要があります
 そのため、株主総会での特別決議による定款変更が必要です(詳細は前回記事を参照)。

 さらに、定款変更の後、取締役会または取締役の決定で新本店所在地を正式に決定します。これらの意思決定に基づいて、登記申請が行われます。

3. 経由同時申請とは?

 管轄外移転の登記では、「経由同時申請」という方式が用いられます。これは次のような流れです。

  • 旧本店所在地を管轄する法務局に申請書類一式を提出
  • 旧本店所在地の登記が完了した後、法務局が新所在地の法務局に登記申請を「経由」送付
  • 新本店所在地の登記が完了して本店移転が完了

 この申請は「同時に行う」必要があり、旧・新どちらか一方だけでは受理されません
 提出する書類には以下が含まれます:

  • 株主総会議事録(定款変更)
  • 取締役会議事録(移転決定)
  • 登記申請書(旧管轄・新管轄両方)
  • 登録免許税:6万円(旧本店→新本店の両方に登記が必要)
  • 印鑑届出書(※改正前までは新管轄に必要)

4. 令和7年4月施行:印鑑届出制度の改正内容

 これまで、管轄外移転の場合は、新所在地の法務局に印鑑届出を再提出する必要がありました
 しかし、令和7年4月21日から施行される改正により、以下のように変わります:

 改正後:本店移転後における新所在地での印鑑届出が不要に

 つまり、旧所在地で届出された会社代表印の情報が、そのまま新法務局にも引き継がれる形となります。これにより、企業側の手間が一部省略されることになりました。

 ただし、これは代表印そのものの届出が不要になるだけで、印鑑カードに関する手続きは別となります。

5. 印鑑カード再発行の注意点

 印鑑届出が不要となる一方で、旧法務局で使用していた印鑑カードは新しい本店所在地では使用できません
 本店移転後は、新所在地の法務局にてあらためて印鑑カードの交付申請を行う必要があります。

 印鑑カードがないと、登記簿謄本や印鑑証明書の請求がオンラインでできないため、移転後は速やかに印鑑カードを再取得することをおすすめします

 申請には、会社代表者印を押印した申請書と本人確認資料等が必要です。

6. 実務でのよくあるミスと対策

 管轄外移転に関する実務での失敗例は以下の通りです:

  • 株主総会の開催タイミングが遅れてスケジュールに間に合わない
    → 早期に日程を調整し、招集通知の発送も忘れずに行う。
  • 旧・新法務局の両方に提出すべき申請書を片方だけ準備
    → 必ず「経由同時申請」の形式で、二通の申請書をセットで用意。
  • 印鑑カードを再取得しないまま業務で印鑑証明を請求できず焦る
    → 本店移転完了後、すぐに新所在地での印鑑カード申請を行う。
  • 登録免許税を6万円でなく3万円で誤って計算
    → 管轄外移転は6万円が原則(資本金1億円以下の場合)

 こうしたミスを防ぐためには、司法書士に早めに相談することが確実な対策となります。

7. まとめ

 本店移転において法務局の管轄をまたぐ場合は、通常の移転よりも手続きが複雑かつ慎重さが求められます

 特に、

  • 定款変更を伴う株主総会決議
  • 経由同時申請の準備
  • 印鑑届出の制度改正(令和7年4月)への対応
  • 印鑑カードの再取得

といったポイントを正確に押さえることが重要です。

 制度改正により一部手続きは簡素化されましたが、印鑑カードの再発行など見落としやすい部分も残っています
 スムーズな移転とその後の登記業務のためにも、司法書士など専門家のサポートを受けることを強くおすすめします

変更登記

資金調達や資本政策を行う際、会社が採用する代表的な手法のひとつが「募集株式の発行」です。しかし、実務では「新株発行」と「自己株式の処分」が混同されることが多く、それぞれの法的性質や資本金への影響、登記上の違いを正しく理解しておくことが重要です。本記事では、会社法に基づく募集株式の発行について、基本的な仕組みから、新株発行と自己株式の処分の違いまで、わかりやすく解説します。特に中小企業の経営者や実務担当者、司法書士試験を目指す方にも有益な内容となっています。

会社の本店移転に関する登記手続きは、移転先によって必要な準備や決議が大きく異なります。特に、本店を「市区町村」単位で越えて移転する場合は注意が必要です。このような移転では、定款の変更が必須となり、株主総会での特別決議も求められます。
また、移転先が現在の法務局の管轄外にある場合には、さらに手続きが複雑になります。