管轄外移転の登記では、「経由同時申請」という方式が用いられます。これは次のような流れです。
- 旧本店所在地を管轄する法務局に申請書類一式を提出
- 旧本店所在地の登記が完了した後、法務局が新所在地の法務局に登記申請を「経由」送付
- 新本店所在地の登記が完了して本店移転が完了
この申請は「同時に行う」必要があり、旧・新どちらか一方だけでは受理されません。
提出する書類には以下が含まれます:
- 株主総会議事録(定款変更)
- 取締役会議事録(移転決定)
- 登記申請書(旧管轄・新管轄両方)
- 登録免許税:6万円(旧本店→新本店の両方に登記が必要)
- 印鑑届出書(※改正前までは新管轄に必要)
4. 令和7年4月施行:印鑑届出制度の改正内容
これまで、管轄外移転の場合は、新所在地の法務局に印鑑届出を再提出する必要がありました。
しかし、令和7年4月21日から施行される改正により、以下のように変わります:
改正後:本店移転後における新所在地での印鑑届出が不要に
つまり、旧所在地で届出された会社代表印の情報が、そのまま新法務局にも引き継がれる形となります。これにより、企業側の手間が一部省略されることになりました。
ただし、これは代表印そのものの届出が不要になるだけで、印鑑カードに関する手続きは別となります。
5. 印鑑カード再発行の注意点
印鑑届出が不要となる一方で、旧法務局で使用していた印鑑カードは新しい本店所在地では使用できません。
本店移転後は、新所在地の法務局にてあらためて印鑑カードの交付申請を行う必要があります。
印鑑カードがないと、登記簿謄本や印鑑証明書の請求がオンラインでできないため、移転後は速やかに印鑑カードを再取得することをおすすめします。
申請には、会社代表者印を押印した申請書と本人確認資料等が必要です。
6. 実務でのよくあるミスと対策
管轄外移転に関する実務での失敗例は以下の通りです:
- 株主総会の開催タイミングが遅れてスケジュールに間に合わない
→ 早期に日程を調整し、招集通知の発送も忘れずに行う。 - 旧・新法務局の両方に提出すべき申請書を片方だけ準備
→ 必ず「経由同時申請」の形式で、二通の申請書をセットで用意。 - 印鑑カードを再取得しないまま業務で印鑑証明を請求できず焦る
→ 本店移転完了後、すぐに新所在地での印鑑カード申請を行う。 - 登録免許税を6万円でなく3万円で誤って計算
→ 管轄外移転は6万円が原則(資本金1億円以下の場合)
こうしたミスを防ぐためには、司法書士に早めに相談することが確実な対策となります。
7. まとめ
本店移転において法務局の管轄をまたぐ場合は、通常の移転よりも手続きが複雑かつ慎重さが求められます。
特に、
- 定款変更を伴う株主総会決議
- 経由同時申請の準備
- 印鑑届出の制度改正(令和7年4月)への対応
- 印鑑カードの再取得
といったポイントを正確に押さえることが重要です。
制度改正により一部手続きは簡素化されましたが、印鑑カードの再発行など見落としやすい部分も残っています。
スムーズな移転とその後の登記業務のためにも、司法書士など専門家のサポートを受けることを強くおすすめします。