【第3回】なぜ清算人登記で「定款」が必要なのか?(株式会社編)司法書士が詳しく解説

2025年12月26日

株式会社が解散し、清算人を登記する際には「定款のコピー」を添付する必要があります。しかし、なぜ解散登記時に定款確認が求められるのか、他の登記では不要なのに清算人だけ例外なのか、実務でも誤解が多い部分です。本記事では、司法書士が清算人登記と定款添付の理由を体系的に解説します。

目次

  1. 株式会社の清算人登記で定款が必要な理由
  2. 理由①:定款に清算人に関する規定がある可能性があるため
  3. 理由②:清算人会を置くかどうかの確認のため
  4. 理由③:代表清算人の規定や選任方法の確認のため
  5. 理由④:法定清算人になるかどうかの判断資料となるため
  6. なぜ他の登記では定款添付が不要なのに、清算人登記だけ必要なのか
  7. 定款添付の「実務的な落とし穴」
  8. 定款を添付しないとどうなる?
  9. 清算人登記をする際に確認すべきポイント(株式会社)
  10. FAQ(よくある質問)
  11. まとめ

1. 株式会社の清算人登記で定款が必要な理由

 株式会社が解散し、清算人の登記を行う際、申請書に添付すべき書類として法務局が求めるのが**「定款(写し)」**です。

 これは、清算人選任の方法や清算人の構成が定款によって左右され得るためです。
清算人は会社の財産整理を行う非常に重要な役職で、定款に特別な規定がある場合、一般的な選任方法とは異なる扱いになります。

 法務局は、提出された議事録に基づいて清算人をそのまま登記するわけではなく、**「定款の規定に反していないか」**を必ず確認します。

2. 理由①:定款に清算人に関する規定がある可能性があるため

 株式会社の定款には、次のような規定が置かれている場合があります。

定款例

  • 「会社が解散したときは取締役が清算人となる」
  • 「代表取締役が代表清算人となる」
  • 「清算人は株主総会で選任する」
  • 「清算人会を置く」

このように、定款で清算人に関する取り決めがされている会社は少なくありません。

定款に規定がある場合、株主総会で別の清算人を選ぶことはできません。

そのため法務局は、登記申請時に必ず定款を確認し、

  • 議事録で選任された清算人
  • 定款に記載された清算人・選任方法

が一致しているかをチェックします。

3. 理由②:清算人会を置くかどうかの確認のため

 株式会社の場合、定款で清算人会を置くことが可能です。

清算人会がある場合:

  • 清算人は複数で構成される
  • 清算人会の議決方法が定められている
  • 代表清算人の規定が存在することもある

清算人会の規定がある場合には、代表清算人の選び方や決議方法が変わるため、法務局は必ず定款を確認する必要があります。

4. 理由③:代表清算人の規定や選任方法の確認のため

 定款に代表清算人の規定がある場合、株主総会や取締役会での選任手続きは、その定めに従って行わなければなりません。

例えば:

  • 定款で「清算人の互選により代表清算人を定める」と規定
    → 株主総会で代表清算人を選ぶことはできない。
  • 定款で「代表取締役が解散後は代表清算人となる」と規定
    → 代表清算人の議事録が不要となる。

このような規定があるため、定款の確認は必須となります。

5. 理由④:法定清算人になるかどうかの判断資料となるため

 定款にも株主総会でも清算人を選ばない場合、最後の取締役が自動的に法定清算人になります。

しかし:

  • 本当に定款に規定がないのか
  • 清算人の選任議事録の形式が適切か
  • 定款に矛盾する選任方法ではないか

これを確認するため、法務局は定款の提出を求めます。

6. なぜ他の登記では定款添付が不要なのに、清算人登記だけ必要なのか

 通常、役員変更登記などでは定款を添付しません。※取締役会非設置会社の代表取締役互選は必要。
しかし、清算人登記だけは例外的に定款が必要です。

その理由は次の3点:

  • 清算は会社の最終局面であり、定款の規定を最優先しなければならない
  • 清算人の選任は 定款 → 株主総会 → 法定清算人 の優先順位があり、確認が必要
  • 会社の財産処理・債務弁済という重大局面のため、法務局側も厳格にチェックする必要がある

つまり、清算手続だけは例外的に「定款が実体の根拠」となるため、添付が求められています。

7. 定款添付の「実務的な落とし穴」

 司法書士がよく遭遇するのが次のトラブルです。

よくあるケース

  • 社長が「定款は最新版です」と言って出したが、実際は古いバージョン
  • 電子定款と紙定款が両方あり、どれが最新かわからない
  • 清算人についての規定があるのに株主総会で別人を選任していた
  • 清算人会が定められていたのに、単独清算人で議事録を作成していた

これらはすべて**登記却下(申請不受理)**となります。

8. 定款を添付しないとどうなる?

 法務局は以下の対応を行います。

  • 補正(追加提出)の指示が必ず出る
  • 定款規定との整合性が取れない場合は「却下」
  • 清算人選任方法の不備があれば議事録の作り直しが必要

結果として、
解散登記・清算人登記が遅れ、過料のリスクも発生します。

9. 清算人登記をする際に確認すべきポイント(株式会社)

 清算人登記を行う前に、次の点を必ず確認する必要があります。

  • 定款に清算人の定めがあるか
  • 清算人会の規定があるか
  • 代表清算人についての規定はあるか
  • 株主総会での選任議事録が定款と矛盾していないか
  • 清算人選任が普通決議でよいか(特別多数が必要ないか)
  • 法定清算人となる場合、その根拠は明確か

清算手続は「書類の整合性」が命です。
特に定款との照合ミスは起こりやすいため、実務では慎重な確認が求められます。

10. FAQ(よくある質問)

Q1. 定款が見つからない場合、登記はできませんか?

→ 原則として定款の写しは必要です。見つからない場合は再作成・再収集が必要。

Q2. 定款に清算人の規定があっても、株主総会で別人を選任できますか?

→ できません。定款変更を先に行う必要があります。

Q3. 清算人会の規定があることに気づかず、単独清算人にした場合は?

→ 登記は却下されます。議事録の作り直しが必要です。

Q4. 代表清算人は必ず必要ですか?

→ 清算人が複数いる場合は必須です。単独の場合は不要。

Q5. 電子定款でも提出できますか?

→ PDF での提出が可能です。最新の電子署名が付されたものが望ましいです。

11. まとめ

株式会社の清算人登記で定款が必要なのは、

  • 清算人選任の最上位ルールが定款である
  • 清算人会・代表清算人の規定を確認するため
  • 登記に矛盾があると大きなトラブルにつながるため

という明確な理由によるものです。

解散登記は単純な手続のように見えて、実は「定款との整合性チェック」が重要であり、実務上の落とし穴も多く存在します。

解散・清算結了登記

株式会社が解散し、清算人を登記する際には「定款のコピー」を添付する必要があります。しかし、なぜ解散登記時に定款確認が求められるのか、他の登記では不要なのに清算人だけ例外なのか、実務でも誤解が多い部分です。本記事では、司法書士が清算人登記と定款添付の理由を体系的に解説します。

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