選任懈怠が最も深刻な影響を及ぼすのは、行政の許認可を受けて事業を行っている企業です。
たとえば、建設業、宅地建物取引業、金融関連業などの業種では、「誰が役員であるか」「役員に欠格事由がないか」といった点を許認可の条件として厳しく審査しています。
このため、任期満了のタイミングで役員の選任決議を怠ってしまうと、その期間に役員の不在(空白期間)が生じることになり、
「正当な代表者が存在しない期間があった」として、行政庁からの許認可が取消されるおそれもあるのです。
しかも、過去にさかのぼって後日株主総会で決議をしても、「空白があった事実」は消せません。形式を後から整えても、行政庁の判断で取り返しのつかない事態となる可能性があります。
5. 選任懈怠を防ぐためにやるべきこと
選任懈怠を防ぐには、会社の役員任期を正確に把握し、**「次の株主総会で選任しなければならない役員は誰か」**を事前に確認しておく必要があります。
以下のような実務対応をおすすめします。
- 任期管理表を作成し、年単位・月単位で任期終了の役員をチェック
- 株主総会の開催スケジュールに合わせて、選任議案を準備
- 役員再任も登記事項であるため、登記手続きまで含めて事前設計
- 司法書士や顧問弁護士と定期的に機関設計を見直す
特に「再任だから変更はない」と思いがちな再任登記も、法律上は義務である点を見落としがちです。再任の場合も選任決議と登記申請が必要です。
6. まとめ:見落としが許されない「会社の生命線」
登記懈怠が「手続きミス」であるとすれば、選任懈怠は「機関不全」という会社の根幹を揺るがす問題です。任期切れを放置したままでは、会社の意思決定の正統性が疑われ、許認可を失い、会社としての存続にすら影響を及ぼしかねません。
特に許認可事業者は、行政庁に対して「役員構成が適切であること」を常に証明し続ける責任があります。
任期と選任は、会社経営の「生命線」です。
「うちはまだ大丈夫」と思っていても、ふと気がつけば任期が切れていた……というケースも少なくありません。今一度、自社の役員構成と任期を見直し、懈怠がないか確認することを強くおすすめします。
次回は、「許認可取消」など、実際に生じた選任懈怠によるトラブル事例をもとに、さらに実務的な観点で解説します。