第2回:副業・小規模ビジネスで会社を作るメリット・デメリット

2025年11月21日

副業やフリーランス、小規模ビジネスの広がりに伴い、「会社を作ったほうが良いか」というご相談が年々増えています。しかし、法人化にはメリットだけでなく"管理コスト"というデメリットも存在します。本記事では、司法書士の視点から、副業や小規模事業で会社を作るべきかを判断するためのポイントを、わかりやすく解説します。

【目次】

  1. 副業・小規模事業で「法人化」が注目される理由
  2. 法人化の主なメリット——信用・契約・税務面
  3. 法人化のデメリット——管理・費用・責任の増加
  4. "節税目的の法人化"の落とし穴
  5. 副業やフリーランスで法人化が向いているケース
  6. 法人化しないほうが良いケース
  7. 合同会社か株式会社か——どちらを選ぶべき?
  8. 副業法人の設立実務——司法書士が見る注意点
  9. まとめ:法人化は「目的」と「管理能力」で判断する

1. 副業・小規模事業で「法人化」が注目される理由

 近年、副業解禁が進み、個人が事業を立ち上げるケースが増えています。
その中で、「小さな事業でも会社を作るべきか」という質問が非常に多くなりました。

 背景には次のような社会的流れがあります。

  • 副業・フリーランスという働き方が一般化
  • SNS・ネットショップで個人でも大きな売上を作れる
  • 小規模事業に企業が業務委託するケースが増加
  • 法人契約を求められる業界の拡大

 一方で、「法人化しない方がいいケース」もはっきり存在します。
その線引きを明確にするためには、メリットとデメリットの両方を知る必要があります。

2. 法人化の主なメリット——信用・契約・税務面

対外的な信用力が圧倒的に高まる

法人登記があることで、会社の存在が公的に証明されます。
香川県でも、大手企業や役所からの業務委託では「法人であること」が条件になる例が増えています。

個人事業では

「信用審査で落ちた」
「法人でないと契約できないと言われた」
というケースも実際にあります。

契約の幅が広がる(特にBtoB)

法人格があることで、

  • 取引先との継続契約
  • 業務委託契約
  • EC運営での特定商取引や取引枠
    などがスムーズになります。

中でも「法人格を持つだけで契約単価が上がった」という声は少なくありません。

税務面で選択肢が広がる

法人は個人と比べて

  • 経費で落とせる範囲
  • 社会保険の扱い
  • 税率(累進ではない)
    などで柔軟性があります。

本業+副業の"二重の収入構造"を持つ方には、特に効果が出やすい場面があります。

事業を資産化できる(承継・売却)

法人は法人として事業・権利を持つため、
将来的に事業を承継したり、売却したりすることが可能です。

3. 法人化のデメリット——管理・費用・責任の増加

会計・税務・社会保険などの管理コスト

法人になると、

  • 法人税の申告
  • 年1回の決算
  • 社会保険加入(原則)
  • 給与計算
    といった管理業務が一気に増えます。

特に「副業法人」では、本業の忙しさと合わせて負担が増えやすい傾向です。

設立費用・維持費用がかかる

株式会社設立では

  • 定款認証(約5万円)
  • 登録免許税(15万円)
    など、初期費用がかかります。

また、税理士報酬や社会保険料など、年間の固定費も無視できません。

法人名義の口座や契約が必要になる

法人用の銀行口座、クレジットカード、取引サービスなどを個別に管理する必要があり、事務量が増えます。

4. "節税目的の法人化"の落とし穴

 法人化の相談で最も多いのが

「節税できると聞いたので会社を作りたい」
というケースです。

しかし、節税はあくまで「副次的なメリット」であり、節税だけを目的に法人化すると多くの場合うまくいきません。

理由は次の通りです。

  • 法人化により社会保険料が上がる場合がある
  • 管理コストで利益が消えることがある
  • "やりすぎ節税"は税務調査のリスクを高める
  • 本業の稼働が減るほど管理が苦しくなる

節税だけではなく、
事業の方向性・契約・信用・リスク管理の全体像
を見て検討することが重要です。

5. 副業やフリーランスで法人化が向いているケース

 以下に当てはまる場合は、小さな事業でも法人化の効果が大きい傾向にあります。

向いているケース

  • BtoB取引が多く、信用を求められる
  • 業務委託契約の単価が大きい
  • 仕事量が安定している
  • 経費が多く、管理しやすくしたい
  • 従業員や外注を増やす予定がある
  • 将来的に法人での融資を利用したい
  • 本業+副業で収入管理を明確にしたい

特に**継続契約(サブスク型・顧問契約型)**の仕事は、法人化した方が取引がスムーズになります。

6. 法人化しないほうが良いケース

 一方で、次のような場合は法人化のメリットが思いのほか小さくなります。

法人化を急がなくても良いケース

  • 短期的な副業で規模拡大の予定がない
  • 売上が不安定で、毎月の固定費負担が重い
  • 管理業務が苦手で、税務や社会保険に時間が割けない
  • 売上のほとんどが個人向け(BtoC)
  • 責任や契約リスクが小さい仕事

例えば「単発の動画編集副業」や「メルカリ転売」などでは、法人化のデメリットが上回ることもあります。

7. 合同会社か株式会社か——どちらを選ぶべき?

 副業法人では**合同会社(LLC)**を選ぶケースが増えています。

合同会社のメリット

  • 設立費用が安い
  • 決算公告が不要
  • 小規模な事業に向いている

ただし、業界によっては「株式会社のほうが信用される」ことも事実です。

選び方の基準

  • 対外的信用が必要 → 株式会社
  • コストを抑えたい/小規模で十分 → 合同会社

司法書士としては、
**"取引先がどちらを求めるか"**が最も重要なポイントだと感じます。

8. 副業法人の設立実務——司法書士が見る注意点

会社の住所(本店所在地)

自宅を本店にする場合、
・賃貸の使用制限
・大家さんの承諾
・バーチャルオフィスの可否※業種によっては、許可・認可されないケースがあります。
などを確認する必要があります。

事業目的の設定

副業法人では複数の事業を並行するケースが多く、事業目的を広めに設定する必要があります。
しかし"広すぎる目的"は逆に融資や許認可で評価が下がる場合もあるため、慎重な設計が重要です。

本業との利益相反の回避

会社員が副業法人を作る際は、
・就業規則
・競業避止
の観点で一定の配慮が必要です。

社会保険の取り扱い

法人化すると、原則として社会保険加入が必要です。
これを理解していないと"法人化したら逆に手取りが減った"という誤算につながります。

9. まとめ:法人化は「目的」と「管理能力」で判断する

 副業・小規模ビジネスでの法人化は、信用力の向上や契約面のメリットがあり、有効な選択肢です。
 しかし、節税だけを目的にすると負担ばかり増えてしまいます。

法人化は次の2つで決めるのが最適です。

事業の目的(どのような取引がしたいか)
② 管理能力(会社運営の手間を負担できるか)

この2点が明確であれば、小規模でも法人化が大きな武器になります。

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