第3回:商業登記の義務化強化はある?——2025年以降の動向を予測

2025年12月09日

相続登記の義務化に続き、「商業登記も強化されるのでは?」という議論が専門家の間で高まっています。現在も商業登記には"2週間以内の義務"がありますが、実務では長年放置されるケースが多く、その改善が検討されている状況です。本記事では、確定情報ではなく"今後の方向性として可能性が高い領域"を、司法書士の立場からわかりやすく解説します。

目次

  1. なぜ今「商業登記の義務化強化」が話題になるのか
  2. 商業登記はすでに"義務"——それでも問題が残る理由
  3. 義務化強化として検討されている可能性のあるポイント
  4. 2025年以降、どこが強化される可能性が高いか
  5. 義務化強化がもし実施されたら会社に何が起きるか
  6. 今からできる実務対応(役員・所在地・目的・資本金の棚卸し)
  7. まとめ:確定ではないが、方向性として備える価値はある

1. なぜ今「商業登記の義務化強化」が話題になるのか

 2024〜2025年にかけて、法務省や企業法務の専門家の間で
「商業登記の実効性を高めるべき」
という議論が高まっています。

 理由は大きく3つあります。

  • なりすまし登記・虚偽登記の増加
    代表者"になりすまして"会社を乗っ取る事例が報告され、本人確認の強化が求められています。
  • 反社会的勢力・マネロン対策(AML/CFT)
    所在不明法人・長期未登記法人が犯罪利用されるリスクが問題に。
  • 相続登記義務化の成功モデル
    義務+過料+履行確保強化というパッケージが機能し、
    「商業登記でも同じ仕組みを導入すべきでは?」という声が上がっています。

 ただし重要なのは、
**現時点で"確定的な制度改正の発表はない"**という点です。
あくまで方向性として、議論が強まっているという段階です。

2. 商業登記はすでに"義務"——それでも問題が残る理由

 商業登記は従来から以下のとおり義務です。

  • 役員変更:就任・退任から 2週間以内
  • 本店移転:移転日から 2週間以内
  • 商号・目的変更:決議後 2週間以内
  • 違反した場合:会社代表者・取締役に 過料

 しかし、実務では次のような問題が残っています。

  1. 過料が実質機能していない(徴収が少ない)
  2. 放置されても取引上は気づきにくい
  3. 所在不明法人・長期未登記法人が多数残る

この"実効性の低さ"が改善対象となっているわけです。

3. 義務化強化として検討される可能性のあるポイント

 司法書士として議論を追っている中で、
特に可能性が指摘されるのが以下の4点です。

本人確認の厳格化(可能性は非常に高い)

今もっとも注目されているのはここです。

  • 就任承諾書の本人確認
  • 登記申請者(代表者)の実在性確認
  • オンライン認証(マイナンバー署名等)の強化

特に"なりすまし対策"の文脈では、
商業登記において本人確認を強化しない理由がない
と言える状況です。

過料の引き上げ・徴収の強化(可能性が高い)

現在の過料は数万円レベルで、実務ではほぼ科されていません。
そのため、次のような方向性が検討される可能性があります。

  • 相続登記のように10万円レベルの過料に引き上げ
  • 実際に徴収する方向に運用強化
  • 長期未登記法人への行政処分の強化

特に「所在不明法人の削減」という政策的背景が強いです。

長期未登記法人への行政処分強化(可能性あり)

現在も休眠会社整理は行われていますが、

  • 間隔を短縮
  • 自動化
  • 官報公告の簡素化

などが検討される余地があります。

名簿管理義務の強化との連動(可能性あり)

商業登記そのものではありませんが、
反社チェックの強化により以下が議論されている状況です。

  • 株主名簿の適正管理
  • 役員名簿の更新
  • 実質的支配者情報との連動

 この流れの中で、
「放置された商業登記」が問題視されやすくなります。

4. 2025年以降、どこが強化される可能性が高いか(予想)

 可能性の高さで整理すると、以下のように考えられます。

  1. 【非常に高い】本人確認の厳格化
  2. 【高い】過料の引き上げと徴収強化
  3. 【中程度】未登記法人への行政処分の強化
  4. 【一定の可能性】名簿管理義務の強化

一方で、

  • 登記義務期間そのもの(2週間)
  • 義務内容の新設(新たな登記義務の追加)

などの"制度の根本"が変わる可能性は低いと考えられます。

5. 義務化強化がもし実施されたら会社に何が起きるか

 現実的に想定される影響は次のとおりです。

役員変更の放置による過料リスクが増える

任期満了や辞任の処理が必要になります。

所在地変更を放置できなくなる

特に小規模法人でよくある
「移転したが登記は数年後」
という状態が許されなくなる可能性があります。

本店所在地の実在性チェックの厳格化

バーチャルオフィス利用企業が影響を受ける可能性あり。

司法書士・専門家への依頼が増える

本人確認の厳格化が実施されれば、
専門家関与が求められるケースが増えると考えられます。(本当にそうなればいいのですが)

6. 今からできる実務対応(役員・所在地・目的・資本金の"棚卸し")

 義務化強化は"確定ではない"ものの、
会社側が今からやっておくべき整理は明確です。

役員の任期・就任日・退任日を確認する

長年放置すると遡及処理が必要になり、コストが上がります。

本店所在地が実態に合っているか見直す

移転後に登記をしていない会社は非常に多いです。

✔ "目的"が古くなっていないかチェックする

取引先の反社チェックでも確認される項目です。

実質的支配者の情報を正確に管理する

銀行融資・反社チェックで必須項目になりつつあります。

7. まとめ:確定ではないが、方向性として備える価値はある

 商業登記の義務は「すでに存在」しています。
しかし、なりすまし対策・反社チェック・ガバナンス向上の観点から、

"義務の実効性を高めるための強化"は
中期的には十分起こり得る方向性

です。

 まだ確定した制度改正はありませんが、
司法書士としては、
「今のうちに登記事項を整理しておく」ことがもっとも合理的な備え
と考えています。※最寄りの法務局で登記簿(全部事項証明書)を取得し、定款の内容と照らし合わせてみてください。

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