第4回:社長が変わると会社はこう変わる——代表取締役交代の実務と注意点

2025年11月28日

社長(代表取締役)が交代すると、会社の"顔"が変わります。銀行、取引先、役所、許認可、契約……そのすべてに影響するため、登記だけ済ませれば良いわけではありません。本記事では、司法書士の立場から、代表交代時に起きる変化、必要な手続き、注意すべきポイントをわかりやすく解説します。

目次

  1. 社長が変わると会社は何が変わるのか
  2. 代表取締役交代で発生する実務手続き
  3. 銀行対応で特に注意すべきポイント
  4. 許認可・資格業の会社における注意点
  5. 社長交代で起こりやすいトラブル例
  6. 交代手続きの流れ:いつ・何を・誰が行う?
  7. 辞任・解任・選任で必要な書類
  8. 家族経営・同族会社ならではの注意点
  9. 代表交代と一緒に見直したい会社の仕組み
  10. まとめ:社長交代は"会社の節目"。早めの準備が会社を守る

1. 社長が変わると会社は何が変わるのか

 代表取締役は会社の"最高意思決定者"であり、社会的には会社の象徴です。
そのため、代表が変わると多方面で影響があります。

主な影響先:

  • 銀行
  • 税務署・役所
  • 許認可行政機関
  • 取引先
  • 社会保険
  • 契約関係(リース・賃貸など)

よく誤解されますが、
代表交代=登記だけすれば完了ではありません。
実務のほとんどは"登記後の対応"にあります。

2. 代表取締役交代で発生する実務手続き

 代表交代で行うべきことは、主に次の3つに分けられます。

会社内部の手続き(社内)

  • 取締役会議事録/株主総会議事録
  • 就任承諾書
  • 辞任届
  • 印鑑届の変更
  • 社内通知

法務局での登記

  • 代表取締役の氏名
  • 住所
  • 役職名
    の変更を登記します。
    2週間以内に申請しないと過料のリスクがあります。

外部への届出・手続き

  • 銀行
  • 税務署
  • 社会保険
  • 許認可行政
  • 取引先・顧客
  • 売上先・仕入先
  • リース会社・カード会社
  • ECプラットフォーム

登記よりも、この外部対応に時間がかかることも多いです。

3. 銀行対応で特に注意すべきポイント

 銀行での代表者変更は、最も影響が大きい分野のひとつです。

●1. 代表印の変更は必ず銀行へ届ける

銀行は「社長=会社の法的責任者」として扱うため、
契約書や振込依頼書の署名権限が変わります。

代表印が変わった場合は特に重要です。
実務ではこれを忘れてトラブルになる例が多発しています。

●2. 口座凍結リスクを避ける

銀行によっては、代表交代情報が外部に漏れた際、
「不正防止」のため一時的に取引保留になる場合があります。

早めに担当者へ連絡しておくのが安全です。

●3. 借入中の銀行は優先対応

社長交代は銀行にとって"重要事項"です。
特に、

  • 保証協会付き融資
  • プロパー融資
    を受けている場合は必ず連絡しましょう。

4. 許認可・資格業の会社における注意点

 建設業、宅建業、運送業、介護事業など"許認可が事業の基盤"である会社では、
代表交代=資格変更扱い
となる場合があります。

例:

  • 建設業 → 変更届
  • 宅建業 → 専任取引士の選任変更
  • 介護事業 → 管理者変更届
  • 古物商 → 代表者変更届

許認可は行政庁へ"事前届出"が必要な業種もあるため要注意です。

5. 社長交代で起こりやすいトラブル例

ケース1:銀行カードの停止

代表者が変わったのに旧代表がキャッシュカードを使用し続け、
後に銀行から指摘された例。

ケース2:許認可の届出漏れで事業停止

宅建業の代表者を変更したが、専任取引士の変更届を忘れ、
後に行政指導を受けた例。

ケース3:取引先への連絡が遅れ、契約が一時保留

代表者の押印が変わり、取引先が確認を求めるも、
社内で情報共有がされておらず契約が進まなかった例。

これらはすべて"情報の伝達不足"が原因です。

6. 交代手続きの流れ:いつ・何を・誰が行う?

 一般的な流れは次の通りです。

  1. 社長交代を決定(取締役会/株主総会)※交代するのは、引継ぎがかなり進んでからになるのが一般的です。
  2. 議事録作成
  3. 就任承諾書・辞任届準備
  4. 印鑑届作成(新代表印)
  5. 法務局で登記申請(2週間以内)
  6. 税務署・役所への届出
  7. 銀行手続き(最重要)
  8. 取引先など外部への通知

特に"議事録の形式"は法的に重要です。
記載ミスがあると登記が受理されません。

7. 辞任・解任・選任で必要な書類

 代表取締役の交代は、どのように退任するかで書類が変わります。

辞任(任意にやめる)

  • 辞任届※市長に届けている個人の実印での押印と印鑑証明書を添付します。
  • 取締役会議事録(任意の場合も)

解任(会社がやめさせる)

  • 株主総会議事録(解任決議)
  • 解任通知書(実務上)

任期満了

  • 重任か退任かを議事録で決定

新代表の選任

  • 就任承諾書
  • 取締役会議事録/株主総会議事録

代表交代に伴う書類は、
登記の中で最もミスが起きやすい分野です。※わからない場合には、専門家にお願いしましょう。

8. 家族経営・同族会社ならではの注意点

 家族で会社を経営している場合は、
次の点に特に注意する必要があります。

●1. 名前だけ社長を変える"形式的交代"の危険

銀行・役所から
「実際の意思決定者は誰か」
を疑われることがあります。

●2. 兄弟間の対立

後継者選びはトラブルの原因になりやすいです。

●3. 保証人問題

旧代表が融資の個人保証人になっているケースが多く、
新代表へ"切り替えられない"場合があります。

9. 代表交代と一緒に見直したい会社の仕組み

 代表取締役を変更するタイミングは、
次の見直しにも最適です。

  • 定款(目的、株式、役員任期)
  • 議事録の作成ルール
  • 取引銀行の分散
  • 社内規程
  • 印鑑管理
  • 個人保証の扱い

特に事業目的の追加は、
新社長の方針に合わせて行うことが多いです。

10. まとめ:社長交代は"会社の節目"。早めの準備が会社を守る

 代表取締役の交代は、
見た目以上に多くの手続き・届出・調整が必要です。
特に銀行、許認可、契約関係は会社運営に直結するため、
丁寧に進める必要があります。

 司法書士に相談することで、

  • 必要書類の漏れ防止
  • 最適なスケジュール設計
  • 外部への通知タイミング
    などを整理し、安心して代表交代が行えます。

社長交代は単なる"登記の変更"ではなく、
会社の未来を形にする重要なプロセスです。

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