【司法書士が解説】代表取締役だけ辞任できる?取締役会非設置会社の登記実務と押印・印鑑証明書のポイント

2026年08月19日

「代表取締役は辞めたいが、取締役としては会社に残りたい。」

中小企業の事業承継や世代交代では、このようなケースが少なくありません。

例えば、創業者が代表取締役を退き、後継者に代表権を引き継ぐ一方で、自らは取締役として経営を支え続けるという場面です。

このようなケースでは、代表取締役の地位だけを辞任し、取締役としては引き続き在任することになります。

しかし、この手続きは「代表取締役兼取締役が辞任する場合」と比べて実務上の論点が多く、議事録への押印方法や印鑑証明書の添付などで迷うことも少なくありません。

今回は、取締役会非設置会社における「代表取締役だけ辞任する場合」の登記実務について詳しく解説します。

目次

  1. 代表取締役だけ辞任するとは
  2. 新代表取締役の選定は必要
  3. 実務で最も重要な「押印」のルール
  4. 印鑑証明書が不要となる例外
  5. 実務でよくある勘違い
  6. まとめ

1 代表取締役だけ辞任するとは

代表取締役は「取締役」であることを前提として、その中から会社を代表する権限を与えられた者です。

そのため、代表取締役が代表権だけを辞任し、取締役としては引き続き在任することがあります。

例えば、

  • A 代表取締役
  • B 取締役
  • C 取締役

という会社で、

Aが代表取締役を辞任し、取締役としては残る場合、

変更後は

  • A 取締役
  • B 代表取締役
  • C 取締役

という体制になります。

取締役の人数は変わりませんが、会社を代表する者が変わるため、代表取締役変更登記が必要になります。

2 新代表取締役の選定は必要

代表取締役が代表権を辞任すると、その時点で会社には代表者がいなくなります。

そのため、新しい代表取締役を選定しなければなりません。

選定方法は、第1回で解説したとおり、定款によって決まります。

株主総会で選定する会社

定款で株主総会が代表取締役を選定すると定められている場合は、株主総会の決議が必要です。

取締役の互選による会社

定款で互選と定められている場合は、取締役の互選によって新しい代表取締役を選定します。

まずは定款を確認することが、適切な手続きへの第一歩です。

3 実務で最も重要な「押印」のルール

このケースで最も質問が多いのが、代表取締役選定に関する議事録や互選書への押印です。

商業登記では、新たに代表取締役が就任する場合、その就任を証する書面の真正性が重要になります。

原則として、代表取締役の就任を証する書面については、一定の場合に印鑑証明書の添付が求められます。

しかし、ここには実務上よく利用される例外があります。

4 印鑑証明書が不要となる例外

代表取締役だけが辞任し、取締役には残るケースでは、辞任前の代表取締役が、登記所に届け出ている会社実印で代表取締役選定書面に押印することがあります。

この場合、商業登記規則の運用上、その会社実印による押印が書面の真正性を担保するものとして取り扱われるため、他の出席取締役については、市区町村の実印ではなく認印による押印で足りる取扱いとなっています。

これは、旧代表取締役が依然として会社の届出印を適法に使用できる立場であることを前提に認められている実務上の重要なポイントです。

一方で、この取扱いを利用しない場合には、議事録や互選書に押印した者について、市区町村に届け出た実印による押印と印鑑証明書の添付が必要になることがあります。

「誰が、どの印鑑を押すのか」によって必要書類が変わるため、登記申請前に確認しておくことが大切です。

5 実務でよくある勘違い

「代表取締役だけ辞任するなら、辞任届だけで終わる」

代表権を辞任しても、新たな代表取締役を選定しなければ会社は対外的な代表者を欠くことになります。

そのため、辞任届だけでは足りません。

「議事録には全員が実印を押さなければならない」

必ずしもそうではありません。

旧代表取締役が会社実印を押印するケースでは、実務上、他の取締役は認印で足りる場合があります。

ただし、会社の状況や選定方法によって必要書類が異なるため、個別の確認が必要です。

「どの会社でも代表取締役だけ辞任できる」

代表取締役だけの辞任自体は実務上広く行われていますが、代表取締役の選定方法や定款の内容によっては、決議手続きや書類の作成方法が異なります。

「辞任できるか」だけでなく、「どのような手続きで変更するか」を正しく理解することが重要です。

6 まとめ

代表取締役だけ辞任し、取締役には残るケースは、事業承継や経営体制の見直しでよく見られる手続きです。

一方で、登記実務では、

  • 定款による選定方法の違い
  • 新代表取締役の選定手続き
  • 議事録への押印
  • 印鑑証明書の添付の要否

など、確認すべき事項が数多くあります。

特に、旧代表取締役が会社実印を押印した場合には、他の取締役は認印で足りるという実務上の取扱いは、知っているかどうかで書類作成の負担が大きく変わるポイントです。

次回は、「代表取締役が死亡した場合」の登記手続きを取り上げます。

辞任とは異なり、死亡による退任では辞任届は不要となります。死亡の事実をどのように証明するのか、新代表取締役の選定手続きはどうなるのかなど、実務上の疑問を整理しながら解説していきます。

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